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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)7080号 判決 1966年4月06日

原告 極洋産業株式会社

被告 斎藤雄次

被告 斎藤泰司

被告 相場ふき

主文

被告らは各自原告に対し、金四四八万九、五八四円及びこれに対する昭和四〇年八月三一日以降完済まで年六分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は被告斎藤雄次に対しては保証を供しないで、その余の被告らに対しては各金一〇〇万円の保証を供することを条件として、それぞれ仮りに執行することができる。

事実

一、原告の申立、請求原因及び主張

原告訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、そ請求の原因として、

「原告は加工食品類の売買を目的とする株式会社であるところ、昭和三八年一二月一〇日被告斎藤雄次との間で、毎月二〇日締切り翌月末日限り代金を支払うとの約定により加工食品類を売渡す旨の継続的取引契約を結び、被告斎藤泰司、同相場ふきはその頃原告に対しそれぞれ右契約に基く被告雄次の債務を保証する旨を約した。

原告は右契約に基き被告雄次に対し昭和三八年一二月九日から同四〇年一月一九日までの間別表記載のとおり前記商品を売渡したが、同被告は昭和三九年一一月分から同四〇年一月分までの代金のうち金四四八万九、五八四円の支払をしない。

しかして上記の事実関係からすれば、被告泰司、同相場は商法第五一一条第二項の規定により、それぞれ被告雄次の右債務につき連帯して保証の責に任ずべきである。

よって原告は被告らに対し各自右残代金四四八万九、五八四円及びこれに対する本件訴状が被告らに送達された後である昭和四〇年八月三一日以降完済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ」と述べ、被告らの抗弁に対し、

「被告ら主張の抗弁事実は否認する。原告は被告雄次から本件売買代金の支払確保のため手形の交付を受けたことはあるが、本件の取引を手形取引に変更したことはない。」と述べた。

二、被告の答弁

被告ら訴訟代理人は、答弁として、

「被告雄次は、同被告に対する請求原因事実をすべて認める。

被告泰司、同相場は、原告が加工食品類の売買を目的とする株式会社であること及び原告主張の日に原告と被告雄次との間に原告主張の継続的取引契約が成立したことは認めるが、右契約に基きなされた具体的な売買については知らない。被告泰司及び同相場が原告主張の保証契約を結んだことは否認する。もっとも、右被告両名は前記原告と被告雄次間の取引に関する契約書に署名したことはあるが、被告らの署名の肩書部分に存する「保証人」という記載は、右署名の当時には存在しなかった。右被告両名は被告雄次から保証人になることを頼まれ、これを拒絶したが、被告雄次が「保証人とならなくても、名前だけ書いてくれればそれでよい。」というので右契約書に署名したもので、原告との間で保証契約を結ぶ趣旨で署名したものではない。」と述べ、被告泰司、同相場の抗弁として、

「(一) 仮りに、原告と被告泰司、同相場間に保証契約が成立したと認められるとしても、原告と被告雄次間の契約によれば、代金の支払は毎月二〇日締切り翌月末日限り現金払という定め(甲第一号証の一の契約書第三条)であるから、保証人は最悪の場合でも二ケ月分の取引額につき保証の責を問われるに過ぎないので、右被告両名は保証契約を結んだものである。しかるに原告と被告雄次は右契約の趣旨に反し次第に手形によって代金の決済をするようになり、結局当初の現金払の約定は、被告泰司、同相場の不知の間に手形取引に変更されたものである。しかして原告が本訴で請求する残債務は右変更後の昭和三九年一一月分以降のものであるから、右被告両名はこれについて保証の責を負わない。

(二) 仮りに右の主張が容れられず、被告泰司、同相場が右の手形取引による分についてまで保証の責を負うべきものであるとすれば、右保証契約は要素の錯誤により無効である。

すなわち、一般に商取引における代金支払の方法が、現金取引であるか手形取引であるかということは契約当事者にとって、重要な意味をも、ちそれは契約の要素にあたるというべきである。そしてそれはまた、右取引に基く代金債務についてなされる保証契約についても重要な内容をなすというべきである。ところで、右被告両名は前記契約書第三条記載の「現金払」の条項を文字どおり現金払と信じて保証契約を結んだのであるが、これが手形取引をも含むものとすれば、右被告らは決して保証をする意思はなかったものである。それ故被告雄次と原告との取引が手形取引をも含むものとすれば、本件保証契約はその要素に錯誤があったものといわなければならない。」と述べた。

三、証拠<省略>

理由

(一)  原告が加工食品類の売買を目的とする株式会社であること及び昭和三八年一二月一〇日原告と被告斎藤雄次間に原告主張のとおりの内容の加工食品類の継続的取引契約(以下単に基本契約という)が成立したことは各当事者間に争がない。

しかして、右契約に基き原告がその主張のとおり加工食品類を被告雄次に売渡し、その代金残額が金四四八万九、五八四円であることは、同被告の認めて争わないところである。

よって同被告は原告に対し右残代金を支払う義務のあることが明かである

(二)  そこで次に被告斎藤泰司及び同相場ふきの保証責任の有無について検討を進めるが、まず原告と右被告両名との間の保証契約の成否につき判断する。

成立に争のない甲第一号の一並びに証人桑原武夫及び被告斎藤雄次、同斎藤泰司の各供述を総合すれば、被告泰司及び同相場は昭和三八年一二月頃前述の原告と被告雄次との基本契約に基く同被告の債務につきその保証の責に任ずる旨約したことを認めるに十分である。

もっとも、右被告雄次及び同泰司の各供述によれば、被吾泰司及び同相場が前記基本契約に関する契約書(甲第一号証の一)に署名した当時には右両被告の肩書部分に保証人なる記載はなかったというのであり、右被告らはこれを理由に保証契約の成立を否認するけれども、前掲被告泰司の供述によっても、保証人となること以外の如何たる目的で署名したのかその述べるところは明らかでなく、前記被告雄次及び同泰司の供述全体を検討すると、むしろその署名の趣旨は保証人となるにあったことは否定できないものと認められる。そして他に右認定を動かすに足る証拠はない。

(三)  そこで、次に前記基本契約に基き原告と被告雄次間で現実になされた取引についてみるに、被告雄次本人尋問の結果により成立を認め得る甲第三号証の一ないし三、証人梅田和夫の証言によって成立を認め得る甲第三、第四号証の各一、二及び右被告雄次、証人梅田和夫の各供述並びに原告と被告雄次間において争のない原告主張の取引内容(別表記載)合わせ考えると、原告と被告雄次間には原告主張のとおりの取引が行われたが、結局被告雄次の代金支払が遅滞したため昭和四〇年一月一九日をもって取引は中止され、同年一月末現在でその未払残額は金四八一万七、三八四円であったところ、その後被告雄次において金三二万七、八〇〇円を支払い、現に金四四八万九、五八四円の残額が存することを認めることができる。

(四)  ところで被告泰司及び同相場は、右残額は当初の現金取引が手形取引に変更された後のもので、同被告らの保証の範囲に属しない旨主張するので、次にこの点について検討する。

前述の基本契約においてその代金支払は毎月二〇日締切り、翌月末日支払の定めであったことは当事者間に争がなく、前掲甲第一号証の一によれば、被告雄次は右の期限に現金をもって支払をすべきことを約していたことが認められる。

しかして前掲甲第三、第四号証の各一、二並びに証人桑原武夫、同梅田和夫、及び被告斎藤雄次の各供述によれば、右代金は、初めは現金で支払われたけれども、原告はそのすべてを現金で支払うことを要求するのは酷であろうと考えその時々の被告雄次の都合により、一部小切手もしくは短期の手形(大部分第三者から被告雄次が受領していたもので五日ないし二〇日ぐらいの後には支払われるもの)を受領することを認め、取引を続けて来たものと認められる。

しかし、それが前述の基本契約における支払方法に関する約定そのものを変更したことによると認めるに足る証拠はなく、前認定の事実によれば、むしろ原告において被告雄次のその時々の資金事情を酌んで事実上支払方法の緩和もしくは支払の猶予(前認定によれば手形の満期までの五日ないし二〇日ぐらい現実の決済が猶予されることになる)をして来たもので、被告雄次において常に右のような猶予を求める権利がある訳ではなく原告は基本契約の約定に従う履行を求め得る地位を失っていないものと認められるのである。

それ故当初の契約そのものが変更されたことを前提として、これを理由にその保証責任を否定する前記被告らの主張は採用できない。

しかし、例えば主債務者に代金支払の遅滞があるに拘らず、債権者においてこれを放置して取引を継続し、保証人が契約の当時予想し得た範囲を全く超えるような額に上る取引がなされたような場合は、契約そのものに変更のないこともしくは保証の最高限の明示されていないことを根拠としてそのすべてについて常に保証の責を問い得ると断ずるのは正当でなく、契約の趣旨に照らし、保証の範囲を超えるとみるべき場合があると考えられ、被告らの主張は右の趣旨をも含むと解されるので、以下この点について考察する。

既に述べたように、本件基本契約において代金の支払は毎月二〇日締切り翌月末日限り現金で支払うとの約定であったから商品引渡後約二ケ月後に代金支払期が到来する(正確には、引渡の時期により差異はあるが、引渡の後約四〇日ないし七〇日後に代金を支払うべきことにある)ものであり、前掲被告雄次及び同泰司の供述によっても、原告が被告雄次の代金支払の遅滞により直ちに取引を停止する処置に出たとしても略二ケ月分の取引額につき保証の責を問われるべき可能性のあることは被告泰司ら保証人において現に予期していたことが認められる(なお、代金支払の遅延滞が生じた場合でも、事情により或程度の取引の続けられることはあり得ることであり、これについても保証の責を問われることのあり得べきことは予測すべきところであろう)。

ところで、本件においては、前認定のように事実上一部手形等による決済が容認され、その場合には、現実の決済はさらにその手形の期日まで五日ないし二〇日の猶予が与えられることになるわけであり、前掲甲第三号証の一、二に、被告雄次本人及び証人桑原武夫の証言を合わせ考えると、原告は当初の約定を守らない限り取引を停止するという厳格な態度を取ることなく、前述のような短期の手形等の授受によって一応処理し、大体未決済額が三ケ月分に達しない程度で便宜の取扱をして来たことが窺われる。

そして前認定の取引内容及び被告雄次本人尋問の結果によれば、昭和四〇年一月本件取引の停止された当時における未払分は昭和三九年一一月分(一部支払ずみ)、同年一二月分及び同四〇年一月一九日までの分であり、本件において保証の責任の問われているのは、右の範囲を出ないものである(その後一部支払われた分を控除した額)ことが知られる。そして、被告泰司本人の供述によれば、被告泰司同相場は被告雄次とそれぞれ姉弟の関係にあり、被告雄次の営業規模を知っており、本件における月間取引額も予測し得る範囲を超えるということはできないと考えられる。

以上に述べたところによれば、原告が本訴請求の基礎とする取引は、保証契約の当時保証人の予測し得た範囲を超えるものとみるのは相当でなく、これを超えるものとして保証の責任を否定することはできないと考えられる。それ故この点に関する被告らの主張も採用できない。

(五)  なお、被告泰司、同相場は、本件保証契約は要素の錯誤により無効であると主張するけれども、当初の基本契約そのものは毎月二〇日締切り翌月末日限り現金払の約であり、被告ら主張のように「現金払」の文言に拘らず手形取引を意味するという趣旨ではなく、ただ原告において被告雄次の資金事情を酌んで事実上取引条件を緩和する措置をとったに過ぎないことは既に述べたとおりである。そして右のように緩和された条件による取引がなされた場合保証の責任がこれに及びかどうかの問題は生じ得るけれども、その保証責任が肯定されたとしても、被告主張の点から保証契約自体に要素の錯誤があるとして当初より無効であるということはできない。よって右被告らの主張も採用できない。

(六)  しかして被告雄次本人尋問の結果によれば、同被告は加工食品類等の売買を業とする商人であることが認められるから、本件取引による代金債務は商法第五一一条第二項にいわゆる主たる債務者の商行為により生じたものというべく、被告泰司、同相場は右規定によりそれぞれ連帯して保証の責に任ずべきである。

(七)  よって被告らは各自本件売買代金残額金四四八万九、五八四円及びこれに対する各被告に対する訴状送達の日の後である昭和四〇年八月三一日以降支払ずみまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があるというべく、原告の本訴請求は理由があるから、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文、第一九六条の各規定に則り主文のとおり判決する。

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